会長ブログblog

2011.05.28

パール・バック

この一週間で見事に田植えが進み、水を張った田圃には周りの山々が映っている。

農作業の機械化で田植えや稲刈りの作業時間は随分と短くなった。
それでも苗代を作り、耕起して水を張り水温が安定してからようやく田植えになる。
植えられた苗は着床するまで大切に植え直され、水の管理は毎日の仕事だ。
農作物は生き物だから、丁寧に育てないと良い稲にはならない。

水と太陽と土が大地の恵みをもたらす。 アメリカの女流作家でノーベル文学賞を受賞した
パール・バック。 中国江蘇省で幼少時代を過ごした彼女の代表作は「大地」だ。
日本にも滞在した事があり、その時の体験に基づいて書かれたのが「大津波」だ。

海に面した山の斜面で段々畑を耕す農家の息子キノと、浜辺に住む漁師の息子ジヤの
物語。 貧しい家に生まれた二人は家の仕事を手伝いながら、仲良く海で遊んだり学校
では机を並べ一緒に勉強する幸せな日々を送っていた。 しかし浜辺の村は常に津波の
危険にさらされ、叉陸の暮らしも何時噴火するとも知れない火山を見ながらの日々だった。

ある夏、火山の噴火による地震で津波が起こり、浜辺の村は跡形も無く流されてしまう。
家も家族も失い、一人ぼっちになったジヤをキノの家で引き取るが、つらい思い出を忘れ
ようとするジヤにキノの父が言う。 「ジヤの父ちゃんたちは死んでもジヤの中で生きとる
んじゃ、ジヤの血には父ちゃんや母ちゃんや兄ちゃんの血が流れとる。」

「ジヤが生きてる限り、父ちゃんたちもジヤの中で生き続けるんじゃ。津波がやって来たが
もう行ってしもうた。叉お陽さんが照り、鳥が歌い、花が咲く。 自分から両親の事を思い
出そうとした時こそ、ジヤはまた幸せになれるんじゃ。」 危険と隣り合わせで生きる暮ら
しに「日本で生まれて損したと思わんか?」と問う息子キノに、父親は毅然として答える。

「人は死に直面することで逞しくなるんじゃ。 だから、わしらは死を恐れんのじゃ。
死は珍しいことじゃないから恐れんのじゃ。 ちょっとくらい遅う死のうが、早う死のうが
たいした違いはない。 だが、生きる限りは勇ましく生きること、命を大事にすること。 
木や山や海がどれほど綺麗か分る事。」

「仕事を楽しんですること、生きるための糧を生み出すんじゃから。 そういう意味で
わしら日本人は幸せだ。 わしらは危険の中で生きとるから命を大事にするんじゃ。 
わしらは死を恐れたりせん。それは、死があって生があると分っておるからじゃ。」

パール・バックの「大津波」。 現在の私たちにキノの父の人生観の有るや無しや?


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