会長ブログblog

2012.06.09

100年の物語

今週6日の天体ショー、魚沼は朝から曇りで観測出来なかった、本当に残念。

金星の太陽面通過は極めて珍しい天文現象で、文字通り世紀のショーといえる。
水星と金星は地球より太陽に近い内惑星だから、太陽、金星、地球の並びが
一直線になると、先日の金環食のように日面通過が起こる。
しかし金星の公転周期が月より長い上、角度がずれているので頻度は少ない。

太陽と地球の間に金星が入るから、「新月」と同じく「新金星」の状態で起こる。
同じように太陽と地球の間に水星が入って一直線に並んでも、距離が遠いので
小さすぎて天体望遠鏡を使わないと見えない。 次回は105年後だそうだから、
もう一度見れる人はいないだろう。 だから本当に残念な天気だった。

先月29日に映画監督・新藤兼人が100歳の人生を閉じた報が入ってきた。
遺作となった「一枚のハガキ」は、昨年度キネマ旬報の日本映画ベスト1に輝いた。
自身の戦争体験から、どうしても撮らなければならない作品だったという。
98歳でのクランク・インで、4月22日に満100歳の誕生日を迎えたばかりだった。

新藤監督の代表作であり、出世作でもある「裸の島」。 殿山泰司と音羽信子の夫婦が
瀬戸内の痩せた島で毎日毎日ふもとから高台のさつまいも畑に天秤で水を運ぶ。
画面では繰り返し黙々と水を運ぶ場面が映し出される、台詞のない映画だ。 
近著「100歳の流儀」で、ご自身の口からこのシーンの「うそ」について語られている。

さつまいもは元来痩せた土地でも、水を必要としない種だ。 だから裸の島の夫婦が
乾いた土に水を遣るシーンは、渇いた私たちの心に水を注ぐ比喩としての表現だ。 
どんなに苦労してでも水を注ぎ続けなければ心が渇き、生きてはゆけない。 
さつまいもに水を遣る、ありもしない「うそ」で監督が考える真実を描いたという。

映画にトーキーの時代が来て、映像による表現力から台詞ですべて表現する安易な
方法が幅をきかせてきたのを憂いて、あえて台詞の無い「裸の島」を撮ったという。
それくらい映像表現に拘った監督だったが、脚本も数多く手がけた。 
独立系映画の先駆者として、日本映画史に残した足跡は大きい、ご冥福を祈る。

100年の時間が奇しくも新藤監督と金星(ヴィーナス)共通の物語だった。


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